鉄血編に引き続き、今回は熱血編部分の言葉と言い回しを解説します。
鉄血編では、暦が吸血鬼退治の専門家3人と戦う決意をしました。忍野への200万円の借金もできましたが…。
熱血編ではいよいよバトルシーンが”言葉”で描かれます。映画をご覧になった方は思い出しながら、そうでない方は文章から情景を想像できるように分かりやすく、私の見解やコメントを交えながら解説していきます。
お楽しみくださいませ。
傷物語について
書籍情報
傷物語 2008年5月7日刊行
著者:西尾維新
出版:講談社(講談社BOX)
映画情報
傷物語〈Ⅱ熱血編〉 2016年8月19日公開
制作:シャフト
小説で言うとchapter7からchapter13までの内容
シーンで言うと暦がギロチンカッターに勝利し、羽川を助け出した場面までです。
言葉の意味・言い回しの解説
登場人物はそれぞれ、次のように略します。
- 阿良々木暦→暦
- キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード→キスショット
- 忍野メメ→忍野
- 羽川翼→羽川
chapter 007 102~118ページ
紆余曲折あって(略)
102ページ
紆余曲折…事情が込み入った経過を辿ることです。
忍野の交渉によって、ドラマツルギーが最初の相手になったときの暦の言葉です。忍野は話せばわかりそうな連中なんて言っていたため、込み入ったというより案外簡単だったのかもしれません。
(略)儂は五百年生きておるが、そんな人間、寡聞にして知らんぞ
103ページ
寡聞にして知らないは見聞が少ないために知らない(聞いたことがない)という意味の言葉です。キスショットのは「五百年生きておるが」という前置きがあるため、説得力があります。
夜の帳の中、暗くても見える眼というのは便利だけれど……、やっぱ、なんだか付け焼刃感は半端じゃないな。
105ページ
夜の帳…夜の闇を例えた言葉で、帳は隔てに使う布のことです。
付け焼刃は知識や技術を一時の間に合わせに覚えることで、格闘技の本を読んだところでその場しのぎである ということになりますね。
(略)こいつ、そんなアグレッシヴな奴なのか?
106ページ
ここでのaggressiveは積極的な、または活動的な という解釈でいいでしょう。羽川に対する暦の考察です。
「スパシーボ!」
111ページ
羽川がロシア語だよと突っ込みをくれたspasiboはありがとうという意味ですが、暦は『素晴らしい』的な意味で使いました。
含蓄のある言葉を当たり前のように言うな。
111ページ
含蓄のあるは深い意味のある を表します。物語シリーズでかなり有名な、羽川翼のセリフ「何でもは知らないわよ。知ってることだけ」のことですね。時系列順で考えると、ここが初登場のセリフでしょう。
chapter 008 118~141ページ
(前後略)極めて即物的にして物騒な主義を、
118ページ
即物的…実際の事物に即して考えたり行動したりすることです。
吸血鬼を退治することしか考えていない と解釈できます。時間も場所も選ばないのは確かに物騒ですよね。
さすがにそう嘯くだけのことはあり、(略)
118ページ
嘯くは豪語することです。忍野が、自信ありげに言っていただけのことはあるようです。
僕が、相手が手ぶらであるのをいぶかしむ暇こそあれ、(略)
120ページ
いぶかしむは訝るとも言い、不審に思うことを指します。武器を持ってきていないドラマツルギー(実際のところ、フランベルジェは変身能力によるもの)をいぶかしむ暦。
(略)吸血鬼狩りに身を窶すつもりはないか
121ページ
身を窶す…痩せるほどに物事に熱中するという意味になります。
簡単にすると、吸血鬼狩りを仕事として頑張らないか ですね。すこしオーバーというか わざわざ難しく言っている感じがあります。
「相互の認識に齟齬があると困る」
123ページ
齟齬は食い違いのことです。もし認識が異なっていると、暦は人間に戻れなくなるかもしれないため、確認しているんですね。
経験は、どう考えても向こうに一日の長があるだろう(略)
125ページ
一日の長は知識や経験などが優れていることを意味します。一日どころじゃない と続きますが、相手はプロなのですから当然です。
少しは策を弄してくるかと思ったが(略)
126ページ
策を弄するは簡単にすると策を練ることです。暦は考えなしの愚直な攻撃を仕掛けました。
(略)牧歌的な妄想だった。
128ページ
牧歌的…牧歌(牧童などがうたう歌)のように素朴で抒情的なさまです。
これに関しては意味を知ってもいまいちよくわかりませんね…私はのどかで短絡的な という解釈をしています。
chapter 009 141~154ページ
(前後略)そういうところで債務不履行は犯させないさ
146ページ
砕いて言い換えると、義務を果たさせる になります。プロの仕事ですから、難しく言ったほうが格好がつきますね(笑)
(前後略)全くもってまどろっこしい真似をしているわけだ。
148ページ
まどろっこしいはじれったいを意味します。(変な言い方をせずにじれったいでいいのでは…)
僕の心中に澱のように溜まっていた、(略)
150ページ
澱…かすのように積り溜ったものを指します。暦の心には不安や不信が溜まっていました。キスショットに対する不信感もあったでしょう。
(略)忍びなかったんだろうと
僕は思うよ152ページ
忍びないは耐えられない などの意味を持ち、心苦しいという意味合いでも使われる言葉です。自ら命を差し出した暦に対して、気が引けたのだろう。という忍野の考えです。
後にある忍野の言い間違い「廿い」ですが、暦が訊き返している通り”廿”は にじゅうを表します。十、二十、三十のにじゅうです。小説ならではの文字通りの言葉遊びですよね(笑)ちなみにさんじゅうは卅または丗です。
chapter 010 154~168ページ
噂をすれば影が差すって言うじゃない?(略)
157ページ
噂をすれば影が差す…ある人の噂をしていると、不思議なことに本人がやってくる という意味の諺です。
羽川は暦に話をしたことで、吸血鬼と遭遇してしまったのではないか と考えています。暦はキスショットに。羽川は眷属になった暦にそれぞれ遭遇しています。
「ロハスならいいけどな」
159ページ
言葉の意味は知らないが、「アロハ」と似ていた言葉「ロハス」と発言する暦。羽川は完全にスルーしています。そんな「ロハス」の意味はこちら
- アメリカで始まったライフスタイルのことで、英語の頭文字をとってLOHASと呼ばれる。
- フィリピンにある湾岸都市の名前
- フィリピンの初代大統領の名前
chapter 011 168~194ページ
(前後略)徒手空拳で挑んでしまった失敗から得た教訓を活かせていない感じだが、
170ページ
徒手空拳は手に何も持っていないことを意味します。フランベルジェを使うドラマツルギーに素手で挑んだことを言っていますね。
(略)何の矯めもなくその四本の爪を自分のこめかみに差し込んだ。
171ページ
矯めにはいくつか意味がありますが、「狙いをつける」が適当でしょう。文脈からは「ためらいもなく」と誤認してしまいそうです。
当然のように脳内を直接弄るのは怖いです(笑)
身も蓋もないことを、キスショットは言った。
172ページ
身も蓋もない…露骨な表現により、風情も感じられないことを表す慣用句。
キスショットは、人間を見下したりエピソードに対して思うことを率直に述べたりしました。
「(略)そこは含んでもらうしかないな」
174ページ
含むには事情を理解して心に留めるという意味があります。学習塾跡に来るために何度も道に迷うことになるが、唯一の協力者・羽川にはそれを理解してもらうしかないのです。
(前後略)砂場の砂は攪拌されて散っているのだ
190ページ
攪拌はかき混ぜることですね。エピソードの十字架が突き刺さったことで砂場が混ぜられ、舞い上がっているようです。
単純な動作なのに攪拌ってずいぶん難しい感じですよね…
(略)そんなこと、元の木阿弥だというのに。
194ページ
元の木阿弥…一度良くなったものが、再び元の悪い状態に戻ること。
吸血鬼の治癒効果によって直した羽川を抱きしめたシーンですね。吸血鬼の力で抱きしめて壊してしまうと~となります。
chapter 012 194~213ページ
(前後略)俺も焼きが回ったもんだ。
197ページ
焼きが回るは能力が衰える、また頭の働きが鈍くなることを意味します。
プロであるエピソードが素人の暦に負けたときのセリフです。確か猫物語で6歳くらいって言っていたような…?
吸血鬼退治には年齢など関係ないのか、それともエピソードは年齢詐称をしているのか不明です。
(前後略)一般人だからってその参画を見逃せるような余裕はなかった
197ページ
参画…計画に加わることです。ここではよく比較される言葉「参加」のほうが適切という気がします。
(前後略)羽川翼と言えば、僕は真面目一辺倒の、杓子定規な奴かと思っていたけれど
205ページ
簡単に言い換えると「羽川翼と言えば、決まって真面目で、自分の基準で考える融通の利かない奴かと思っていた」ですね。
正しく意味を当てはめて考えるとちょっとひどい言い方ですよね(笑)
私はずるいし、それにしたたかなつもりだよ。(略)
208ページ
したたかは強かと書き、強くしっかりとしているさま を意味します。怖いくらいの聖人とまで言われた羽川のセリフですね。あなたのしたたかさは後に知られますよ。
chapter 013 213~227ページ
人質は
看過するしかないのだ。220ページ
看過は見逃すことです。ギロチンカッターは武器として人質をとっているため完全に不利な勝負であるにも関わらず、忍野は手を出せません。暦は人質を看過して戦わなければなりません。
(略)あちらを立てればこちらが立たずである。
221ページ
あちらを立てればこちらが立たずは両立は難しい という意味の言葉です。不利な状況を改善する方法を考える暦ですが、それでは勝負が成立しません。それならば羽川の命を最優先させると結論づけました。
(前後略)あのふたりを当て馬として使いたかったからなんだろう?
221ページ
当て馬…相手の様子をうかがうために、仮の人を出すこと。
ギロチンカッターは意図的に指示をできる立場ではありませんでした。そこで戦いを観察したり順番を最後にしたりすることで、他のプロを当て馬のようにしたのですね。
高らかに哄笑するばかりである。
224ページ
哄笑は大声で笑うことです。勝利を確信したというか自分の勝利しかありえないみたいな態度で笑っていました。
おわりに
熱血編の解説でした。
臨場感溢れるバトルシーンは小説もさることながら、映像ではかなりのクオリティだったようですね。
また今回も、かなりの量になったため解説する言葉を選別しています。網羅はしておりませんのでご注意くださいませ。
傷物語ラストスパート冷血編に続きます。
ありがとうございました。
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