今回は傷物語最後の冷血編部分について、言葉の意味や言い回しを私の見解やコメントを交えながら解説します。
前回の熱血編では吸血鬼退治の専門家と勝負し、3人目であるギロチンカッターに暦が勝利を収めたところで終わっています。難関を越えた感じがしますが、ここからが阿良々木暦の愚かしさが顕著に描かれる物語シリーズの醍醐味なんですよね。
傷物語について
書籍情報
傷物語 2008年5月7日刊行
著者:西尾維新
出版:講談社(講談社BOX)
映画情報
傷物語〈Ⅲ冷血篇〉 2017年1月6日公開
制作:シャフト
小説で言うとchapter14からchapter18までの内容
シーンで言うとギロチンカッターとの勝負の翌日 忍野に叩き起こされるところから始まり、バッドエンドという結末を迎える+後日談が語られる場面までです。
言葉の意味・言い回しの解説
登場人物はそれぞれ、次のように略しています。
- 阿良々木暦→暦
- キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード→キスショット
- 忍野メメ→忍野
- 羽川翼→羽川
chapter 014 227~245ページ
(前後略)昨日の殊勝な態度はどこへ行ったのか、
228ページ
殊勝…もっともらしく、神妙にしていることを指します。
ギロチンカッターとの交渉に”ミスって”沈痛な表情を浮かべていた忍野に対しての言葉です。「感心なこと」という意味もありますから、皮肉のように感じられますね(笑)
(略)約束を反故にしてくることは十分に考えられる可能性だった。
230ページ
反故は無駄なもの や無用のものという意味です。「約束を反故にする」と使われますよね。簡単にすると、約束を無かったことにする→約束を破る です。
僕がいくら気をもんだところで、その領分は忍野に任せるしかなかったのだが
230ページ
気をもむ…色々と心配すること
ギロチンカッターが約束を守るのかどうか心配していました。
韜晦するようにそう言って、忍野は、(略)
232ページ
このときの韜晦は、自分の本心を目立たないように包み隠すことを意味します。
暦の心情を読み取っておきながら、それを隠すように「何かいいことでもあったのかい?」と忍野は言いました。
思わず竦んで、両手で受け取ったそれを取り落としそうになるが(略)
236ページ
竦むは恐怖や緊張のあまり、こわばって動かなくなることです。
誰にも経験はないと思いますが、いきなり心臓を放り投げられたら誰でも竦みますよね(笑)
(略)眷属のきみを入れても二対三じゃあ、いかにも均衡が取れない
239~240ページ
均衡…ふたつまたはそれ以上の物事の間で、力や数量などの釣り合いがとれていること。
均衡をとるのがバランサー:忍野メメの役割ですね。
はっきりと
そして辛辣に。244ページ
辛辣な言葉なんてよく使われますよね。きわめて手厳しいことを指します。
この時点でまだ忍野は羽川と会っていません。これ以前にも羽川は常軌を逸している・気持ち悪いと話していました。
chapter 015 245~267ページ
まあ
今となっては栓無きことか。249ページ
栓無いは手遅れや効果がないことです。
羽川は忍野と会いたいと思わなかったのか訊いていませんでしたが、忍野が去った今ではそれを考えても無意味なんですね。
物怖じし、萎縮してしまった。
251ページ
物怖じ…何かにつけて物事を怖がること。
萎縮…生気をなくして縮こまること。
意味を考えると過剰な表現に思えますが、完全体となった伝説の吸血鬼に対する暦の胸中を強調しているのでしょう。
(略)中立の立場を取り続ける日和見主義者で助かったわ
252ページ
日和見は有利な方につくため形勢をうかがうことです。
この言い方だと、忍野は有利になった方を陥れるみたいに聞こえます。暦は酷い物言いだと思っていますがその通りです(笑)
(略)元々は怪異殺しは儂の渾名ではなくもの刀の字じゃ
257ページ
渾名…他人を親しんだり嘲ったりして、本名以外につける名。
字…文人や学者などが実名以外につけた名。(古い言い方で渾名)
これらを使い分けるとは恐れ入ります。キスショットの渾名は怪異殺しで、心渡の字は怪異殺し。ぴったりしっくりしていますね!
しかしまあ
宴もたけなわ、だ。263ページ
二十歳を超えると誰もが耳にするであろうこの言葉。宴は同字異音のうたげ、たけなわは物事の勢いが最も盛んであることです。
吸血鬼の眷属になってキスショットが完全復活するまで、結構短いように思えます。それだけ勢いがあったということですよね。また単純に屋上で話していた時間がうたげのように解釈していたのかもしれません。
またぞろ世界中を放浪でもするのだろうか。
265ページ
またぞろはあまり望ましくないことが繰り返されるさまを表し、呆れた気持ちを込めて使われます。そういえば観光で日本を訪れたとか言っていましたね。
chapter 016 267~309ページ
僕の中には
まだもうひとつ、燻っているものがあった。277ページ
燻るには様々な意味がありますが、このとき使われたのは「心の底で思い続ける」でしょう。
自身も吸血鬼であることから眼を逸らしていた暦は、”小腹が空く”ことで事実を思い知りました。
考えてみれば、これはかなりの滑稽譚だ。
278ページ
滑稽譚…可笑しい、ばかばかしいという理由から笑われる物語。
メールでは、僕はそんなこと、おくびにもださなかったのに(略)
286ページ
おくびにも出さないは物事を深く心に隠して、口外もせず素振りにも見せないことを意味する慣用句です。
詰問するような口調ではないが(略)
289ページ
詰問…相手の非を責めて厳しく問い詰めること。
厳しい言い方ではないが厳しい質問ではありました。痛いところを突かれたようです。
(前後略)確固たる一線を引いている
294ページ
確固はしっかりとして動かないさま。一線を引くはもともと一線を画すると言い、物事にはっきりと区切りがつくことを指します。
忍野はバランスをとる以上のことは絶対にしないのです。
(略)ありとあらゆる手練手管を使って、僕にそんなことをさせないと思う。
298ページ
手練も手管も人をだまして操る手段という意味で、「手練手管」と合わせることで意味を強調した熟語です。
本来の使われ方とは場面がやや違いますが、羽川であれば暦をだまして操ることなど容易にできそうですね。
chapter 017 309~346ページ
腹を括って
そう言った。311ページ
腹を括る…最悪の事態も考慮しながら覚悟を決めること。
暦は戦う覚悟を決めて、キスショットの誘いを断りました。
街談巷説。都市伝説。道聴塗説。
316ページ
物語シリーズでよく登場する言葉ですね。
街談巷説…世間の噂話
都市伝説…現代の都市で生まれ、語られる噂話
道聴塗説…世間のいい加減な噂話
意味を見るとほとんど同じことを3つもならべているんですね(笑) まさに言葉遊びです。
僕は、最後の楔を外すことができた。
316ページ
楔はふたつの物事を強く結びつけるものの例えに使われます。
人間は食料という返答を受けて、キスショットを退治することの躊躇が無くなったようです。
この不毛な戦いは、あくまでも前哨戦でしかないのだった(略)
320ページ
前哨戦は本格的な活動の前に行われる活動のことです。実際に暦は「準備段階」、キスショットにとって「お遊び」だと語っていますね。退治する方法を知っているからこそのこの言葉です。
「……詭弁だ」
323ページ
詭弁…道理に合わないことをいかにももっともらしくこじつける弁論。
人間の行いと吸血鬼の”食事”を比べて、暦と共に生きる道を再び探すキスショットが描かれています。「そういう問題じゃない」と否定されましたが…。
(略)殊更、阿良々木くんを挑発して
332ページ
殊更…考えがあって、特にあることをするさま。つまり”わざと”ということですね。
キスショットはわざわざハンデを作って挑発までしています。
(略)うぬが儂の腹積もりなど知る必要はなかった
333ページ
腹積もりは心の中にもっているおおよその予定や計画のことです。
暦が知ってしまうと、キスショットの計画は失敗してしまうことが予想できたのですね。
茫然自失だった
いや、しかし。333ページ
茫然自失…あっけにとられて我を忘れることです。暦は予想もしていないことを言われて一瞬固まったようです。
羽川は毅然として言った。
340ページ
毅然は意思がしっかりとしていて、ものに動じないさまを表します。「毅然とした態度」などと言われますよね。
忍野に関係ないなんて言われますが、羽川は動じずに「関係なくありません」と言い返しています。羽川の”強さ”がにじみ出ていますね。
忍野の反駁に、羽川はそう答えた。
341ページ
反駁は他人の意見や批判に反対して論じ返すことです。簡単にすると反論ですね。
羽川「間違っている」→忍野「どうするつもりなのさ」
彼は滔々と語った。
342ページ
滔々は弁舌さわやかに、よどみなく話す様子のことです。
忍野は元から用意していたかのように話し始めました。
chapter 018 346~355ページ
老婆心ながら言わせてもらえば、(略)
353ページ
老婆心…必要以上に気を遣い、世話をやこうとする気持ち。
羽川の危うさを注意しています。なんども予想を上回るようなことをしていますし、「気持ち悪い」とまで言わせていますからね。
剣呑な目つきで
僕を睨んでいた。354ページ
剣呑はあぶない・不安を覚えるさまを指します。よほど憎しみのこもった睨みなのでしょう。
そして陶酔感が全身に伝わる。
354ページ
陶酔感は酔いしれることです。血を吸わせることで痛みを感じつつうっとりするってどうなんでしょうか阿良々木君。
おわりに
傷物語〈冷血編〉の言葉と言い回しの解説でした。
これで「傷物語」は以上になります。解説にあたって引用文をかなり省略したり、私が知っているから挙げなかった言葉があったりしますが、これで終わりではなく説明の改善や言葉の追加などをしていく予定です。
これを通じて物語シリーズをもっと好きになっていただければ、1ファンとして幸いです。
ありがとうございました。
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